2009
10
05

続・弾よりも速く! X-1以前に「超音速を実現した」とされる軍用機

F35_Sonic.jpg
遷音速域で飛翔するF-35が、翼端ヴェイパーと共に、「ヴェイパー・コーン (vapor cone)」を曳く

昨日はベルX-1とイェーガーの超音速飛行に関する記載をしましたが、同関連を調べていたら、それ以前に「音速を出した」とされる、興味深い記録・主張などを散見しました。
以下に紹介してみます。


有人制御下における、水平飛行での反復かつ正しい記録としての「初の超音速飛行」にはベル X-1とイェーガーの記録に揺るぎはないと思われます。 ただ、不完全ながら超音速を達成したと思われる、興味深い記録も幾つかありました。


第二次大戦中のドイツ

1.ジェット戦闘機 Me262とハンス・ギド・ミュッケ(Hans Guido Mutke)
世界初の実用ジェット戦闘機(実戦に参加)として有名なMe262は、当時プロペラ機では追いつけない最高速を誇っていました。
Wite3.jpg
主張時の機体ではありませんが、Mutke's Me262(ミュッケのMe262)として有名な機体。
終戦時にスイスに引き渡されたことから良好な状態を維持、現在はミュンヘンのドイツ博物館に展示されています。



1945年4月9日 Me262機の習熟中だったミュッケは、米軍戦闘機に接近されつつあった同僚を救うため、高度11,000mからの強引な降下を敢行。 その過程で超音速を達成したと主張しています。
Hans_Guido_Mutke.jpg
Me262の模型を手に、当時の状況を説明するミュッケ氏
戦後は民間航空会社のパイロットとして、また航空医学のための医師として活躍されました。2004年逝去。


なお、この内容は同機の製造メーカーによるテストや、戦後の米・英・ソ連軍でのテストデータ「同機はマッハ0.86を越えて飛行できない=操縦不能・もしくは空中分解」として否定されています。

ただし、同機の性能向上版では水平飛行でもマッハ0.96を確認したとされ、近年ミュンヘン工科大学によって解析されたコンピューターモデリングによるスケールモデル風洞テストから「マッハ1への到達は可能」というレポートもあるようです。

Me262は近年再生され、飛行可能な実機が存在しますので動画でも紹介。
Me 262 the ORIGINAL !!!





2.ロケット戦闘機 Me163とハイニ・ディットマー(Heini Dittmar)
後のコンコルドやスペースシャトルの翼形にもつながる「無尾翼」「デルタ翼」の権威でもあるリピッシュ博士による原設計のMe163は(初期はグライダー)は、1941年にはロケットエンジンを搭載することで最高時速1000kmを達成、その驚くべき高速性能から、即座にドイツ空軍に採用されます。
Me163B_V2a.jpg
無動力試験機(グライダー)のMe163 「後退翼」・「無尾翼」といった独特の翼形が見て取れます


1944年7月6日 試験的に新型エンジンを搭載したMe 163B V18型機は、主テストパイロットのディットマーによって「マッハ1」を達成したとされています。
163B_v6.jpg
尾部形状の似た「Me163B V6型機」とディットマー
氏は、著名な航空機デザイナー兼パイロット。1960年、開発中の航空機事故により逝去。


Walter_HWK109_509C.jpg
後継型への搭載試験としてV18型に搭載された、新型の Walter HWK 109-509C

Me163B_V18_560.jpg
(参考) Me163B型と、後継の同C型側面図より合成した V18型側面図

連合国側もそれを接収したという事実があるようですが、なにぶん当時は戦時中~敗戦国のデータであり、公式には認証されていません。
なお、同機の速度テストには「音速域付近でほぼ操縦性を失う」というレポートがあり、恐らく音速到達は可能であったものの、あまり現実的ではなかった様子もうかがえます。

また、同機は「グライダーにロケットエンジンを搭載した」というやや歪な成り立ちを持っており、ロケットでの飛行可能時間は僅か8分ほど(後に倍増)・着陸には機体下面の「ソリ」を用いるという、実用された軍用機としてはかなり特殊(=それでもドイツ本土へ飛来する重爆撃機の迎撃には需要性があった)な機体でした。

Messerschmitt Me-163

当時としては極めて強力なロケットエンジンにより、'50年代のジェット戦闘機に劣らない上昇性能を見せますが、もとがグライダーだけあって驚くべき離着陸シーンになっています。 (離陸直後に落下するのは、滑走用の台車)

余談ですが、Me163の一部資料は当時軍事同盟下にあった日本にもたらされ、近似形の「秋水」が試作されています。 なお、マッハどころか初の動力飛行に失敗(燃料系トラブルによる失火)し、不時着・パイロットは殉職という、無念の終焉を迎えています。
J8M_Orig.jpg
残骸から再生されたレプリカは三菱重工業にも存在しますが、オリジナルは米リノにある私設博物館プレーンズ・オブ・フェイムに保管展示されています。



戦後のソ連邦において

3.全て借り物競争!な DFS346 試験
終戦間際のドイツにおいて、マッハ2級の超高速偵察機として計画されていた「DFS 346」
DFS346_a.jpg

これを接収した旧ソ連軍は、1946年にB-29のデッドコピーである「Tu-4」から発進させるという、全て借り物ながら XS-1にも似た手法(原計画自体が同手法)にてテスト。 一部で「マッハを達成した」と主張されています。
DFS346_2.jpg
単に収まりの問題でしょうが・・・乱暴にも見える搭載形式。
DFS346_Tu4_b.jpg

DFS346_Mistel.jpg
ドイツでの原案 「ミステル機 (Mistel=ドイツ語で「ヤドリギ」の意味)」は、大戦中に確立された空中発進システム

ただし公式な記録は一切不明。 原設計か組立てが不十分だったのか?テスト結果に関する記述も時速900km台の言及しかなく、概ね否定されているようです

見た感じの外観そのものはX-1よりも先進的ですが、なにぶんドイツでは機体すら未完成の計画段階。旧ソ連軍では計画そのものが遅々として進まなかったようで、検索からは'46年どころか'47~'48年頃という記述しか確認できませんでした。 恐らく、だいぶ後年になってから X-1計画との近似内容を持ち出してきた(現実味がありそうに見える)ように思われます。

Bisnovat5.jpg
なお、'50年台にはDFS 346での研究を「ソ連 オリジナル」に置き換える「Bisnovat 5」に発展させましたが、発達し始めたジェット機に対し大きな優位性を示せず、計画は破棄されています。




米空軍 XS-1計画の影に隠された記録

XP-86とジョージ・ウェルチ (George Welch)
1947年、米陸軍航空隊(間もなく米空軍となる)の要求により、ノースアメリカン(North American Aviation)社は海軍向けのジェット戦闘機FJ-1の更新型である「XP-86」をテスト中でした。 空軍採用後の同機は、強力でタフな新型のエンジンと、ドイツからもたらされた後退翼の成果により、世界一の高性能機として長期に渡り活躍・発展を遂げます。
XP86_Welch.jpg
1947年のXP-86(マッハ達成の実機)とウェルチ氏

メインテストパイロットは、陸軍航空隊において少佐であったウェルチ氏が担当。
彼は'41年の真珠湾奇襲時、同僚と共にクリスマスパーティー明けのホテルから基地へと駆けつけ、P-40B に搭乗して2度の出撃と2機の撃墜を記録したという、言わば陸軍航空隊きっての英雄(大戦中 16機撃墜のエースでもある)でして、その武勲から総指揮官のアーノルド将軍直々に名誉勲章の推薦があったものの、それが軍規に基づいた行動でないとして却下されたという事象がありました。
TaylorWelch.jpg
同武勲を描いた絵画 写真は当時のウェルチ(右)と、同じく迎撃した同僚のテイラー(Taylor)

1944年の春 その「英雄」を、やや勝ち目の見えた戦争で失いたくないという意向でしょうか? 同将軍の推薦により、ウェルチは陸軍を退役。 ノースアメリカン社へテストパイロットとして就職しています。 以下の「指示を無視した音速挑戦 (軍も強硬には止めない)」には、或いはそのあたりの事情も絡むようにも見えますね。


1947年9月 ウェルチとXP-86は、XS-1と同じ飛行場でのテストを開始します。 ノースアメリカン社へは空軍長官から「音速に至るような速度試験は行わないよう」指示があったそうですが、同10月1日の試験飛行においてウェルチはこれを無視。 高度1万mからの急降下を敢行し、超音速を達成=基地においても「ソニックブーム」を観測したとのこと。
そしてさらに同10月14日、X-1の記録飛行のわずか30分前にもウェルチ氏は再度の急降下飛行を行い、恐らく確実に音速を突破(=ソニックブームも確認)したようです。

この結果に対し、ペンタゴンは「X-1計画」への(投資の)正当性を重視し、しばらく同記録の公表を禁止。 空軍も「公式には」否定しています。

なお、ウェルチ氏は1953年5月25日に同社の F-100A戦闘機によって水平飛行による超音速をも達成。
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しかし1954年10月12日、彼のF-100Aはマッハ1.55を達成後に空中分解し、彼は亡くなりました。



追補 「マッハジャンプ」について
ちなみに、 X-1以前の超音速記録においては「速度が正しく測定されていない」という問題点があります。
上記の航空機で利用されている「対気速度計」では、音速付近での過大誤差=「マッハジャンプ」が大きく、亜音速域でも超音速を示す挙動となるようです。
なお、超音速の計測においては、高度や圧力に影響されない、主に温度での計測=マッハ指標を使うものとなっています。


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