2010
05
21

高効率の新型エンジンを発明?

NGG_NewsTOP.jpg

ナショナルジオグラフィック ニュースランキングのトップで見掛けました。
最後の「 ? 」以外は、ほぼニュース表題そのままです。

PC ヲタ以前に機械ヲタであるワタクシも、そこはかとなく興味をひかれ確認することに。
でも・・・この手の内燃機関に、一世紀以上も原理的な進歩がないのには理由もあるんですよねぇ。
この発明は、コロラド州都デンバーの発明家で実業家でもあった故ティンバー・ディック氏と、その息子レビ・ティレマン・ディック( 28 歳)とコルバン( 24 歳)兄弟によるもので、現在はベンチャー企業の IRIS Engines 社として継続されています。

なお、同発明は '08 年の NASA 主催「未来を創ろう( Create the Future )」設計コンテストにおいて、千件以上の応募作を抑え輸送技術部門の第1位に輝いたのですが、不幸にもディック氏は授賞式の1カ月前の交通事故で 52 歳の若さでお亡くなりになられたそうです。
その後はティレマン・ディック兄弟が遺志を引継ぎ、'09 年にはベンチャー・キャピタル Draper Fisher Jurvetson 社の投資コンテストで賞金 10 万ドルを獲得した(最終的に同社からの出資提案は断わった)のだとか。
その誇りと自信のほどが伺えるでしょうか。

The IRIS Engine: A 30 second intro


さて、現在も自動車などのエンジンに用いられる『ピストン式内燃機関(レシプロ・エンジン)』を塗り変えんとする、高効率(と主張される)のそれは、「目の虹彩( iris )」のように拡大と収縮を繰り返す構造と掛けて「 IRIS ( internally radiating impulse structure )=アイリス(内部的衝撃放射構造)」と呼称されるようです。


IRIS_Cycle.gif
ホントは「爆発」でなく「点火」~「燃焼」なんですが、Web検索では「爆発」が多数派だったので流されました。

理論的には超高効率を謳っているようですし、確かに見掛け上の燃焼膨張効率は良さそう。
アイディアや様式としては面白いし、「 IRIS エンジン」なるネーミングもなかなか秀逸かと。

しかし・・・驚きました。 コレって未だ図案アイディアの段階で、試作品すら無いんですね。
あと・・・たぶん、この構造では実現(実用)不可なんじゃ?ないですかねぇ。

画像や動画などを拝見するに、開発者は「内燃機関としての効率」のみを「アイディアとして思いついただけ」に思えました。
ダメな点は一見しただけで幾つも浮かびましたが、構造からはマツダの「ヴァンケル・ロータリー」での問題点が類推しやすいかと思います。


その 1 :燃焼室の構造問題はヴァンケル・ロータリーより悪そう

見た目は大きく違いますが、コレって根本的にはロータリー同様に燃焼膨張を受ける構造に見えますね。
たぶん燃焼室褶動面において高温下で密閉しつつ潤滑させるという大問題がありますし、加えて、 2 ストロークどころか 1.5 ストロークな燃焼サイクルからは、高濃度・高温の排気ガスにも悩まされる気がします。
それにこの特徴的な羽部品も、不均一に高熱に曝されつつ、高速で精密に動作しなければならないように見えますし、かなり薄く作る必然性がありそう。 上記の褶動面問題からも、かなり実用困難に感じます。
ちなみに吸排気バルブ?面は、褶動時に一体どうやって逃がすのでしょう??

何となくですが、廉価な部材で早期に問題解決するには、マツダの特許に抵触してしまう気もしますね。
Apex_Seal_and_Key.jpg
世界で唯一、マツダだけが(執念で)「実用化」したヴァンケル・ロータリーを支える小部品。

ヴァンケル・ロータリーの燃焼行程
Wankel_Cycle.gif
ちなみに、 この「おにぎり型」ローターを風車状にして真円可動させたらもっと効率的だと思いませんか?
でも実際には、それが「不可能」だからクランク類似の「エキセントリック・シャフト」を使った「擬似ロータリー」なんです。




その 2 :吸排気系なんて大して考えてませんよね?

動作図では構造として「エンジン」を成しておらず、最大の疑問点は吸排気構造とそのタイミングでした。

IRIS_560.jpg
初期図面では「排気ポート」を思わせる側面穴から「吸気」するように描かれ、同時にレシプロエンジンそのままの吸排気バルブが燃焼室上部(エンジン配置上は側面)に描かれています。
また、サイト解説を見る限り、吸排気も兼用でそこから行うようです・・・。
厳しい燃焼室環境に対し、とても効率の悪い配置には見えましたが、吸気排気パイプ類やプラグ、インジェクターの配置を想定すると、まだこの頃の方が現実味があるかも。


IRIS Engine


一方で最新と思しき CG アニメでは、排気バルブ?がクランク回転によって駆動制御され、燃焼室中央底面(現実配置上は「エンジン内部側面」)に描かれています。
ブロック部は実際には殆ど空洞だから可能といえば可能だし、スペース効率的にはスッキリですが・・・燃焼室の掃気効率などは著しく悪そうですねぇ。
あと細かい事を言えば、クランク・コンロッドを含めたエンジン全体の潤滑・冷却系をどうするのか?も気になりますね。


ちなみに、コレって・・・全て自然吸排気でやる気なんでしょうか?
この薪ストーブ並に劣悪(失礼)な吸排気システムだと、見掛け上エネルギー変換効率が「良さそう」でも、恐らく実運転したら一昔前の 2 ストロークエンジン並に凶悪な排ガスを出す気がします。

構造上のエンジン特性も、大ボア×ショートストロークな V6 型 2 ストローク・エンジンを類推させる感じ。
このエンジンの「高効率」とはロータリー類似の「(排気量当たりの)高出力型」であって、現実的な「低燃費」や「クリーン」とは程遠い気がしてなりません。
開発チームは部品図は見たことはあっても、現実の自動車エンジンが効率改善と堅牢動作への 100 年にも渡る先人達の涙ぐましい努力の結晶であることを知らない?という疑問すら湧きました。

まぁ、チマチマした省燃費やクリーンな排ガスには興味がなく、アメリカン・マッチョな新エンジンを狙っているとしたら、なるほどですけどね。


その 3 :無意味に長大なエンジンなんですけど?

アイディア図案でしかない・肝心の燃焼サイクルとは無関係である点を考慮して三番目に挙げましたが、これは真っ先に感じました。

Iris_side.jpg

恐らくは現行車種・従来エンジン部材にレトロフィットする構造様式を見せたいのだとは思いますが・・・
フライホイール&ベルハウジングへそのまま構成出来るのは良いとして、動力伝達に 6 気筒型のクランクシャフトを用いる構造は理解し難い。
せっかく高効率を追求したエンジン・サイクルですし、従来部品が活用出来るとはいえ、クランクシャフトはエンジン部材の中でも高価で組付も重要な部品。 当然精密なブロックも新造することになる。
(コレ、クランク潤滑はドライサンプ⇒吹付けにでもする気なんですかねぇ・・・)

かなり無意味なレトロフィットに見えます。

仮に全重は軽くなったとしても、この型式だと従来型の直 4 / V6 コンパクトエンジンの置換えには、むしろ向かない(クランクシャフト+燃焼室=従来型より長大となる)ことにもなりますね。


Mazda_rotary_engine_early.jpg
こちらは極初期(昭和 40 年代)のマツダ・ロータリーエンジン
決して軽くはないのですが、実際のエンジン長はちょうど半分の位置(後ろ半分はミッション)と極小。
現物比較出来るとすれば、恐らく IRIS エンジンの燃焼室ほどの長さです。( IRIS 図にはエンジンとして必須な補記類・構造が一切描かれてない)



なかなか興味深い構造だけど、少なくとも実エンジンが出来るまでは「眉唾モノ」でしょうか。

正直、エコやらクリーンやら、さらにはハイブリッド・電気自動車が大流行な昨今では、未知な上にカネと時間が掛かりそうなパワープラントに専業系が乗り出すかは大いに疑問だったりします。
何よりコレ、パワーは出てても実用性と耐久性、なにより排ガスに問題がありそうな気がしますよ。
まぁ、素人の妄言・暴言ですが。


夢ではなく商売なら、 TESLA MOTORS のように完成された既存のクルマ(軽量で高価なスポーツカー)へ高効率のモーターとバッテリーを搭載し、セレブしか買えないような値段を付けるのがベンチャーらしい一手、と思えてなりません。

Elise_Tesra.jpg
ベースとなった「ロータス・エリーゼ」と「テスラ・スパイダー」



受賞などで知名度を上げ、話題性も集めたんだし・・・取り敢えず資金を集め、ガスで動く試作品でも作って「ハイブリッドエンジンっぽい」モノを画策した方が良策だと思うんだけどなぁ。



IRIS Engines,Inc.
http://www.irisengine.com/


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