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2018
09
03

『この世界の片隅に』 さらに幾つかのお話 3

KONOSEKAI_Gunkan-Aoba.jpg

今回は視聴に感化されて調べた、おフネとか戦史絡みのお話。
という訳でストーリーに全然関係しない話も含まれますよと。

でもまぁ、物語は戦争と軍港の街に深く関わるお話ですからね。
あと今時CGモデリングでない、手描き軍艦にヤラれた人も居るでしょ?

何より昨年収集の資料があるけど、いつかは消去の気もしてた。
そんなこんな何となく記事化することで、少し吐き出してみまする。

KONOSEKAI_Aoba_washtub-day.jpg
舞い落ちてきた羽を拾う、洋上「青葉」での洗濯干シーン

「日本ニュース(報道形式の戦意高揚映画)」に似た感じのがありました
warship_washtub-day.jpg
取得元を忘れましたが、NHKロゴが無いので書籍掲載された写真かも。
支柱含め天幕用途も兼ねる?纜っぽい結構な太さのロープに見えます。

呉へ最後の帰還を果たす「青葉」
KONOSEKAI_Aoba_Kure.jpg
勇ましい凱旋に見えますが、実際はほぼ戦闘能力喪失の大損傷状態。
 ⇨攻撃回避が困難な低速で、辛うじて自力航行
 ⇨浸水によりやや右傾斜、かつ一番砲使用不能

記録では右舷被雷にて甚大損傷(艦首機械室並びに一番砲使用不能)の筈。
でも戦後の写真(着底にて半水没状態)で目立つのは、艦首左舷の大破孔。

すずの頭の中で晴美さんへの記憶へと送られゆく「青葉」でも然り
KONOSEKAI_Aoba_Post-War.jpg

ですがこの(着底状態から)半ばサルベージの映像を見てたら・・・
Broken-hole_Aoba_Kure1946.jpg
右舷へ入った魚雷が炸裂、結果左舷に破孔を生じさせたようにも見えます。

爆圧で盛り上がったように見える艦首甲板
Aoba-Kure-1945.jpg
他の可能性なら、250kg以上の爆撃弾が左舷側命中ないし至近弾ですかね。


青葉言たら "甲巡" ですねぇ
KONOSEKAI_Mizuhara-Tetsu.jpg
「軍艦好きのヒー坊」師事だけあって、水原二等兵曹殿も感心の一言。
コレ現代視点では「重巡」ですが、とても当時(の書籍知識)っぽい。
 ⇨単語としては「甲(正式には一種)巡洋艦」の略
 ⇨その所以なら「戦艦に次ぐ、準主力戦闘艦」の意

"本物の水兵さん"に対する知識披露に加え、同勤務への憧れもあるかな。
まぁ今なら、消防車に乗る消防士を尊敬する子の感覚に近いでしょうか。

一方で哲は「軍艦、青葉」呼称ですが、これは戦時防諜上の呼び方です。
ちなみに「甲、乙、丙」種は用兵区分であって、艦の大小を現しません。
ついでに「青葉」艦齢は哲と同世代、近代化済とはいえ、やや旧式の艦。


小さな民間港前で浮かぶ廃墟と化した「青葉」のすぐ側を通るシーン
KONOSEKAI_AobaMizuhara.jpg
ここでアレ?と思ったのは、測距儀と二番砲が高烏山方向を向いていること。

映画は随所で当時の写真等を再現なので、疑問というか推測を確かめたい。
Bridge-of-Aoba_Oct-1945.jpg
進駐軍撮影の同艦橋部:もちろん実物もこうです。

MONOCHROME SPECTER 様より
IJN-Aoba_Kure-Kegoya_1945.jpg

この写真も見知ってはいましたが、周辺状況を鑑みると、ちょっと驚き。
 ⇨修理不能とされた青葉は、帰還直後からずっとこの場にある
 ⇨砲の仰角は最大でなく、この傾斜において稜線超えに見える
 ⇨測距儀も砲と同一方向、電探も少なくとも山側を向いている

真相なぞ知り得ませんが、状況からは着底後も戦闘継続のように見えます。
(兵科が全滅の機銃座に主計科兵が留まり、射撃継続との当時談はある)
なお艦載機は艦艇に対し陸側から降下、高烏山には高射砲陣地があります。

戦艦伊勢 Battleship Ise PostWar
Battleship Ise PostWar
"帝国海軍戦艦最後の発砲" などとして知られる、哀愁漂う同状況の写真。
ならば青葉の写真もまた、"帝国海軍二〇糎砲最後の発砲" と言えるかも。

ついでに戦後写真の青葉には、高射装置や高角砲が無いのも気になった。
IJN-Aoba_Kure_1947.jpg
方位盤は損傷もなく残置だが、高射装置は同じく無傷の基部だけ残し無い。
これら散見のうちは「下ろして他へ転用?」とか思ってたのですが・・・

江田島湾にて大破横転した「大淀」
IJN-Ooyodo_Edajima_1945-A.jpg
元々損傷のない同艦の高射装置だけが残置されていて・・・

IJN-Ooyodo_Edajima_1945-B.jpg
当時最新かつ最も有力な長10サンチ高角砲が無いのは奇妙

解体の為サルベージされた写真を確認してみると・・・
IJN-Ooyodo_Kure-1947.jpg
なんと水没の右舷側には高角砲がそのまま残っている

たぶん機銃や中口径砲は、状況に関わらず戦後速やかに回収したのかと。
高度な艦上火器管制装置たる高射装置もまた、可能な限り即時回収かな?


物語上は運命の日とも言える、6月22日の呉海軍工廠爆撃シーン
KONOSEKAI_raid-on-Kure_22th-jun.jpg
注視しないと判らない背景の一部として、青葉と伊勢が描かれていました。

これは同日爆撃行を機上撮影したらしき、米軍映像が元となっている模様
IJN-Ise__Aoba_Kure_1945.jpg
呉海軍警備隊の戦闘詳報によれば、同侵入ルートは第三次攻撃のようです。
(ただし米軍側に "第○次" など梯団は無く、単純に所定ルート確保順)

戦後の米軍航空撮影においても、そのままの存在が明瞭に確認できます
IJN-Ise__Aoba_Kure_1947.jpg

劇中では伊勢・青葉とも主砲を撃ってますが、実写では高角砲らしき輝点
IJN-Ise_anti-air_shots_Kure_1945.jpg
伊勢からの砲火と、上空の炸裂煙が同時に写り込むコマがありました。
(到達時間からいって、もちろんこの砲火による炸裂ではありません)
ちなみに、別のコマでは音戸・鍋山砲台の砲火らしき輝点も見えます。

ただB-29損害からも推察出来るのですが、これら対空砲火は貧弱かつ不正確。
 ⇨一定ルート侵入する目標に対し、阻止効果はほぼ無い
 ⇨投弾阻害や損傷はあれど、上空で撃墜された機は皆無

これ探知済で目視可、ほぼ同一侵入角・高度・速度な大型連続目標の筈。
とすれば火器管制が未機能ないし低練度、或いはカンに頼った直接照準?

この点の米軍報告「(大口径砲による)激しく正確な」ですが、言葉の綾。
多少でも損失が有り得る状況を、管理職が過少評価してないだけの話かと。
 ⇨直接的な損失は一機(救難隊の待つ外洋へ脱出途上に炎上墜落)
 ⇨同日出撃の他B-29搭乗員は「まぐれ当たりはあり得る」と述懐

参考画像:とはいえ、任務に就いた搭乗員にとっては悪夢だったでしょう
B-29_flak-damage.jpg


ついでに言うと、米軍は偵察写真から区域目標の全てを事前把握
XXI-BC_3PR_28-may-1945.jpg
写真日付=6/22は作戦(周辺目標)に向けたもので、撮影は5/28とか。

こうした写真解析から、大口径対空砲の位置や数についてもほぼ把握済。
にも関わらず、それら事前制圧なしに昼間中高度での爆撃を遂行し得た。
要するに日本軍の対空防御にさしたる脅威なし、との判断に思われます。

劇中でも、すずが F-13(B-29の偵察機型)の通過を目撃する場面アリ
KONOSEKAI_F13.jpg
海軍を象徴する重要拠点ですら、防空対応力はぶっちゃけ皆無って事。
この数カ月後、同じようなルートを西へ飛んだ B-29 は・・・


テニアン島に眠る、米陸軍航空隊兵士の墓(1945年)
USAAF-Heroes_Tinian-field_1945.jpg

恐縮ながら、後世の人間としては人の死も冷静な数値分析が出来てしまう。
 ⇨同期空爆に伴う米軍人的損失は、日本の特攻戦死者とほぼ同数
(B-29搭乗員だけではありません、ただ全て含めるとたぶん遥かに多数)


○感慨、ないし蛇足
この手で悩ましいのは、情緒的・政治的結論ありきの二次情報が多いこと。
共に結論に都合の良い、或いは客観性の薄い情報を引用しまくってカオス。
んまぁ戦争は狂気だしね、伝える意思が芽生える時点で多少狂ってるよね。

あと、米「作戦任務報告書(Tactical Mission Report)」にも若干の疑問。
隷下の爆撃群、実施爆撃隊の詳細な経緯報告とは不一致の点も幾つかある。
 ⇨例1:実施機材や実行過程報告と部分一致せず
 ⇨例2:予定時刻に遅延の理由など触れていない
この点も報告としての主旨、或いは結論に際しての割愛とは推測出来ます。
ただ、至る(日本側を含む)状況の客観評価には誤認も招きかねないかな。


以前に作った勝手画像
KONOSEKAI-title11.jpg
哲さんにも "居場所" を
KONOSEKAI-title8.jpg

「大和」手描きかぁすごいなぁと思いつつ、ちょっと描き足した
KONOSEKAI_Yamato-Bridge.jpg


あの怪物は、人の咎だ。
追求すればするほどに、悪事は消えていってしまう。
残るのは悲しみと不信ばかりだ。
時が経てば、いいことも思い出せるようになる。私もそう努めるよ。
(宮部みゆき著 「荒神」より)

『荒神絵巻』こうの史代・絵と文 
荒神絵巻
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